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東京学芸大学漫画研究部blog
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辣韮の皮@富山伸彦
少しだけ間が空いた気がするので自重せずにレビュー。

昨今のマンガアニメの中には少なからずオタクなキャラが登場しますね。今期でいうなら「生徒会の一存」とか。ちょっと前でいうなら「らきすた」とか。その背景にはメタ性とか感情移入のしやすさとかオタクの青春への憧れとかいろいろな要因があるんでしょうけど、そういうオタクの自己慰撫を正当化する流れを作ったのはおそらく「げんしけん」だろうと思います。

ゆるい文化部なりの青春像みたいなものを描いた最初の作品はおそらく「究極超人あ~る」ですが、その頃はまだパロディとしての屈折を持っていました。サンデーらしい話です。
そして源流がそこにあるとしても、それが明確な流れとして表面化するのは2000年前後、要は社会が広くオタクというものを認識しだした時期です。エヴァブームなんかの存在も大きいでしょう。(実は90年代初頭にオタクの用心棒という作品もありましたが。)
「進め!!聖学電脳研究部」や「全日本妹選手権!!」、「妄想戦士ヤマモト」なんかが当時の作品では有名な部類でしょうか。基本的にこれらの作品はオタクであることを一種のギャグとして扱い、ギャグマンガらしい過剰な所作とオタクネタのエッセンスで共感と笑いをとるつくりになっていました。
それらに比べると「げんしけん」は恋だったり対立だったり成長だったりみたいな青春臭いエピソードを織り交ぜた、わりと直球な群像劇としてヒットしました。ギャグとして屈折せずにオタクの楽しさを全肯定するようなつくりになっているあたりが特異さであり魅力でもあるのでしょうね。本当にオタクをこじらせている人間からすればなんというかウザいですよね。「こみっくパ~ティ~」なんてゲームもありましたね。
「げんしけん」が描いた楽しさから青春の痛みを脱臭し、萌えキャラを交えることでライトに楽しませるようにしちゃうあたりが最近のオタクを描く作品が持つ限界なんだろうなぁ、とか思います。

さて、そんな中で今回紹介するのは、2000年にスタートし、先日ついに完結し最終巻が出たオタク四コマ、「辣韮の皮(らっきょうのかわ)」です。ある意味でゼロ年代と並走しきった作品とも言えますね。
まずは軽いあらすじから。

人類最下層のヒエラルキー、オタクとしてジメっと薄暗い青春を送っていた滝沢政宗。そんな彼にも人並みに好きな子はいたが、告白したところ「いやよ、滝沢くんて詩織の抱き枕(通販)抱いて寝てそうなんだもん」と図星を突かれ玉砕。滝沢は脱オタを決意し私服登校のオシャレ高校である杜の宮高校に進学。分厚いメガネをコンタクトに変え、髪もブリーチで脱色、ちょっとセンスがズレた過剰なオシャレ服を身にまとい、中学時代の暗い青春とは比べるべくもない暮らしに邁進しようとする。
だが(エセ)さわやかな生徒会長に見初められて彼が連れてこられたのは、高校生ながらの大手同人作家や常時コスプレ服に身を包む真性のレイヤーが所属している漫研だった! 生徒会長は部長であり、滝沢をオタクと見抜いてスカウトしてきたのだ! チクショウ騙された!
滝沢はもちろん断ろうとするが、過去の弱みで散々いじり倒される。そして可愛い女の先輩が部室に入ってきた瞬間、滝沢はあっさり入部を承諾。あっさり釣られやがった。だが彼女は男同士のガッシリとしたまぐわいを描く、ガチンコBL同人作家だった。もう逃げ場はねぇ! 滝沢は泣きながらその日初めて男の股間にトーンを貼るのだった。

第一話を要約するとこんな感じですね。その後も滝沢くんは「僕はオタクじゃありませんし」とアイタタな言動を繰り返しながらつい萌えアニメをチェックしては部長にいじめられたりします。

この作品の面白いところは、「オタクから見たオタクの痛さ」を描いている点で、それぞれ微妙にジャンルの断るオタク同士が友情を育みつつも趣味の話題で時たま「それはどうかと……」と笑いつつヒくような形でギャグを展開していきます。仲良しだけど、アイタタターな瞬間が面白おかしく描かれるわけです。
基本的に季節ごとにリアルタイムで話題が進行し、その当時の流行やなんかも積極的に言及されます。例えば、先輩の手によって今でいう腐女子になってしまった新人の子が最遊記からSEED、そしてコードギアスへと鞍替えしていったりします。
またこの作品はサザエさん時空を採用しており、4月になっても進級はしません。卒業みたいな話題もチラつかず、ビューティフルドリーマーします。そのこと自体を作品内である種のネタにしてみたりもするあたりは逞しいと個人的に感じます。

また、そのときどきの流行りネタも律儀に拾うと同時に、オタクとして非常に古くマイナーなネタもバンバン用いられるのがこの作品の特徴で、部長なんかは80年代丸出しの「作者と同世代じゃねぇのかコイツ」感のある古いオタクです。たまに登場する部長の姉なんかはシュラトやトルーパー世代で完全に作者と同世代です。「さすが姉さんJ9世代」「あんたのLDのコレクションブチ壊すわよ」みたいな姉弟ゲンカをするあたりからいろいろ察してください。
そういう部長の姿も懐古主義者としてやっぱりイタい、若い人は分からないよそりゃ、みたいな形で笑いにしている辺りが素晴らしい。

この作品のテーマみたいなものを自分なりに総括すると、「みんなイタくてみんなイイ」といった感じでしょうか。いや良くないけどね、みたいな冷静さも持ちあわせる自虐的なオタクの屈折が胸をうちます。ヒネくれながらもオタクを肯定し、でも楽しいなと笑えるところがこの作品の素晴らしいところ。

最終回で部長姉が言う言葉、そしてそれをいい歳こいてもずっと貴腐人同人作家やってる部長姉が言うこと、それ自体が作品の総括としてうまいなぁと思います。オタクは終らないんですねぇ。

オタクとしての業を背負う全ての人に贈りたい作品です。我々の世界は、たとえるなら空をかける一筋の流れ星なんですよ、みたいな。
あ、今まで書いた中で結構な数の固有名詞(主にマンガのタイトルとか)が出てきましたが、ある程度はキャプションというか注が欄外についているので大丈夫ですよ? というわけで読みなせぇ。
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事故で消えたと思っていた下書きがFC2内に保存されていたのでちょっとだけ記事の内容を書き直しましたよ。最近のブログは便利だね。
2009/10/25(日) 21:45:51 | URL | 伸彦 #- [ 編集 ]
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